2013年5月14日火曜日

日米のタンゴ、リード役はどちらか? 1ドル=100円を突破した円安・ドル高

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●円相場は4年ぶりに1ドル=100円台に下落した後、さらに下げ足を速めている〔AFPBB News〕



JB Pres 2013.05.14(火) Financial Times
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/37773

日米のタンゴ、リード役はどちらか?
1ドル=100円を突破した円安・ドル高
(2013年5月11/12日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)

 タンゴは1人では踊れない。
 市場では円安が進み、2009年以来4年ぶりに1ドル=100円台を記録した。
 為替市場は切りのいい数字に沸くのが常で、大台を突破した円はその後さらに安くなった。

 日本に注目が集まっている。
 この国は安倍晋三首相の下で、円安の進行が期待できる積極的かつ拡張的な経済政策――アベノミクス――を導入している。
 市場が沸くのももっともだ。
 もし日本が20年以上に及ぶ眠りから目覚めれば、世界経済が活性化されるかもしれないのだから。
 しかし、そうした注目は的外れなのではないかと思われる。
 注目すべきは日本ではなく、為替レートの等式の反対側、ドルの方だろう。
 そして、検討する必要があるのは、米国が長期低迷して日本のコピーになるか否かではなく、
 日本の新しい経済政策が米国の経済政策のコピーになるか否かだろう。

■「通貨戦争」の勝者だった米国

 世界金融危機後の数年間は、米国が勝利を収めた時代だと言える。
 米国経済は(絶対値では多くの人をがっかりさせたが)ほかの国々を上回る成長を遂げている。
 これは、米国が通貨「戦争」の最大の勝者になったためだ。
 様々な通貨との交換レートを貿易規模で加重平均して計算する実効為替レートで見ると、ドルは2001年につけた高値から32%も下落している。

 ドル安には、米国製品の価格が下がって輸出が伸びるという期待がかかる。
 実際にそういう展開になっている。

 調査会社のネッド・デービス・リサーチによれば、米国の国内総生産(GDP)に占める製造業セクターの割合は3年連続で拡大している。
 第2次世界大戦後では初めてのことだそうだ。
 また製造業セクターは2013年第1四半期に年率で5%の成長を遂げており、この記録が4年連続に伸びる可能性が示唆されている。

 ドル安は、雇用にも狙い通りの効果をもたらしているようだ。
 米国では長期の構造的失業が増加しており、将来的に社会問題を引き起こす恐れがある。
 しかし、足元の新規失業保険申請件数は2008年前半以来の水準に減少している。 
 世界金融危機前の「大いなる安定」の時代に見られた値より若干多い程度なのだ。

 これらは通貨戦争に勝利した成果にほかならない。
 問題は、景気が良くなると通貨が強くなり、ひいては通貨戦争の次の戦いで負けてしまう傾向があるということだ。
 ドルが上昇していることから、既にこのパターンは始まっているように思われる。

■「円安」ではなく「ドル高」か

 ほかの市場は、足元のドル円相場の変動が日本よりも米国の方に大きく関係したものであることを示唆している。
 例えば、ドルとは正反対の動きを見せることが多い金(ゴールド)は下落しており、ドルは多くの通貨に対して高くなっている。
 また米国債の利回りは、昔に比べればまだ極端に低いとは言え、急上昇を見せている。

 これらはすべて、米国経済は成長できるという楽観論の表れだ。
 経済指標は引き続きまだら模様だが、この1週間に発表された値を受けて、今年の夏に景気が減速する事態は回避できるとの期待が強まっている。

 またドルの上昇は、米連邦準備理事会(FRB)の量的緩和(QE、利回りを引き下げるために国債を買い入れること)というクスリの効き目が弱まってきていることも示唆している。
 初めのうち、すなわち2009年の前半や2010年の後半にはこのクスリがよく効き、米ドルがあっという間に下落した。

 ところが昨年12月に始まった「QEインフィニティ(特定の期限を切らず、労働市場が回復するまで債券を買い続ける量的緩和)」はインパクトがほとんどなく、最近の市場ではFRBがQEをいつ、どのように終わらせるかがよく話題になっている。

 一方、デンマーク、ユーロ圏、オーストラリア、インド、韓国、ポーランドという6つの国や地域(その経済規模の合計は世界経済のほぼ4分の1に相当する)では、中央銀行が5月第2週に相次いで利下げに踏み切っている。
 日銀の積極的な金融緩和策への必要な対応だったのかもしれない。
 この利下げにより、これらの国・地域の通貨は対ドルで下落している。

■米国を真似る日本

 日本は、過去5年間の通貨「戦争」の最大の敗者だった。
 世界金融危機が始まる時に日本円がかなり過小評価されていたためだった(当時の円安は、日本経済を低迷から脱出させることにはならなかった)。
 この国は今、自国通貨を安くしながら国内の金融システムにマネーをじゃんじゃん供給するという米国の真似をしているように見える。

 足元の円安は、日本の個人投資家が過去2週間*1で外債を5140億円買い越したという先の報道に触発されたものだったとの見方があるが、その可能性はあるのだろうか? 

*1=4月21日~5月4日

 確かにこれらのデータは、日本の投資家が口には出さないものの円安が進む方に賭けていることを示唆している。
 しかし、これはトレンドだと言えるのか? 

 日本の投資家はその前の6週間で日本国債を3兆3000億円売り越していたし、日本の株式市場は非常に魅力的に見えるだろう。
 そういったことを考慮すれば、日本の投資家が米ドル=100円という節目を突破させたとは考えにくい。

■タンゴはまだ続く

 長期的には、米国側にはドル高によって競争力が再度削がれてしまうという問題がある。
 だが、そうなるまでにはそれなりの時間がかかるだろう。
 短期的には、タンゴを踊る日米はどちらも魅力的な投資先に見える。

 モルガン・スタンレー・キャピタル・インターナショナル(MSCI)の指数によれば、日米の株価は今年に入って15.5%上昇している。
 これに対し、日米以外の世界の株価上昇率(ドルベース)は8.4%にとどまっている。

 米国経済が再び減速するまで、あるいはアベノミクスによる日本経済活性化が期待されたほどではないことを示す証拠が出てくるまで、このトレンドの継続を阻止する材料はほとんどない。日米はタンゴを踊り続けることができるのだ。

By John Authers
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JB Press 2013.05.14(火)  川島 博之
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/37737

世界史の中で評価するアベノミクス
元気にするのは日本ではなく新興国

 アベノミクスの評判がよい。
 為替レートは大幅に円安になり、1ドル100円にあと一歩というところまできた。
 日経平均株価も1万4000円付近に戻った。
 いずれも民主党政権の末期には考えられなった水準である。

 街角景気も改善し、デパートではプチ贅沢商品の売り上げが好調という。
 総じて国民はこの結果に満足しており、発足から5カ月が経過したにもかかわらず、安倍政権の支持率は7割前後を保っている。
 7月に行われる参議院選挙でも自民党の圧勝が予想されている。

 このアベノミクスが日本経済に及ぼす影響については、既に多くのことが議論され論点は出尽くしていると思うので、ここではそれとは違った視点からアベノミクスについて考えてみたい。

■株価は上昇しても景気は元には戻らない

 極めてマクロな視点から見ると、アベノミクスは日本ではなく新興国を元気にしている。

 いきなりこんなことを書いても面食らうだろうが、そもそも金利を引き下げて市場に大量の資金を供給する手法は、現在、そんなに奇異な政策ではない。
 米国もEU諸国も行っている。
 アベノミクスは、大きな目で見れば、白川方正総裁の時代には抑制的に行っていた政策を、より大胆に行っているに過ぎない。

 ただ、大胆に金融緩和を行っても、景気が元に戻ることはないと思う。
 米国はリーマン・ショック以後に大胆な金融緩和を行ったが、それによって景気が元に戻ることはなかった。
 あれから5年が経過した現在でも、失業率の改善や個人所得は元に戻っていない。
 その効果は、株価の上昇に留まるようだ。

 その最大の原因は、先進国にものが溢れているためだろう。
 先進国に住む人々は、これと言って買いたいものがなくなってしまった
 確かに宝飾品はいくらあっても邪魔にならないが、テレビや冷蔵庫は1台あれば十分である。
 庶民といえども、どうしても欲しいものはなくなってしまった
 だから、金利を下げても消費に火がつかないのだ。

 そのために消費者に代わって国家が公共事業という名の下に消費を行ってきた。 
 ただ、ヨーロッパや米国に比べて先進国になってからの日が浅くインフラ整備が十分でなかった日本でさえ、インフラ整備はあらかた終わってしまった。

 安倍内閣は国土強靭化のために公共事業を行うとしているが、これはインフラを造るのではなくその修繕を意味している。
 このことからも、新たにインフラを造る余地がなくなっていることが分かろう。

■先進国の余剰資金は新興国へ向かう

 先進国では作るべきものがなくなってしまった。
 だから、いくら金融を緩和して資金を市場に投入しても、それが生産に結び付くことはない。

 しかし、それは思わぬ影響を世界に及ぼしている。

 現在、金融の世界はグローバル化しており、なにも金融が緩和された国でお金を使う必要はなくなっている。先進国で金融が緩和されたなら、先進国でお金を借りてその資金を新興国に投資すればよい。

 新興国では、1950年代や1960年代の日本のように、インフラも消費財も足りない。
 だから、資本を投下すれば、それは極めて効率良く生産に結び付く。


●1人当たりGDPの推移 (2000年を1とした時の値)
(データ:世界銀行)

 図を見ていただきたい。
 この図は1人当たりGDPの推移を示しているが、南アジアやサハラ以南のアフリカの経済が21世紀に入って急速に経済成長していることが分かろう。
 その原因は、長い期間にわたり教育の普及などに地道な努力を続けてきた結果と考えることもできるが、それだけではこの急激な変化を説明できない。
 インド、バングラデシュなど、これまで経済が停滞してきた国々を見ていると、最近の急激な経済成長は魔法が引き起こしたものにしか見えないのだ。

 魔法は先進国で過剰となった資金であろう。
 現在、世界の金融、特にエマージングマーケットへの資金の流入にはヘッジファンドなどが複雑に絡み、その流れを完全に明らかにすることは難しい。
 しかし、図を見れば、21世紀に入ってエマージングマーケットが急成長をし始めたことは紛れもない事実だ。
 世界史的視点に立てば、米国、EU、日本において中央銀行が大量に資金を市場に供給していることは、
 先進国ではなくインドやアフリカの国々を元気にしている。

 今後、先進国は“超”が付く金融緩和政策の出口を探らなければならない。
 しかし、その出口は容易に見つからないと思う。
 振り返って見れば、日本はバブル崩壊以降ずっと金融緩和政策を続けていたのだが、ついに出口を見つけることができなかった。
 そしてその挙句にアベノミクスという“超”金融緩和政策に突入してしまった。

 全ての先進国が今のような政策を続けていると、もう30年もすれば、多くの新興国が現在の中国のような状態になってしまう。
 その結果、インドやアフリカでも資金需要がなくなってしまえば、いくら金融緩和をしても資金の行き先がなくなる。
 それは資本主義の終焉を意味するのかも知れない。

 だいぶ強引な解釈のようだが、図を見ていると先進国の金融緩和が新興国の経済発展を促しているようにしか見えないのだ。






【「悪代官への怒り」】




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